脂肪肝は肝臓に脂肪が蓄えられてしまった状態ですが、過剰に蓄積された脂肪は炎症を起こし、放っておくと肝硬変や肝臓癌になる危険性があるということ、知っていますか?
悪玉コレステロールに引き続いて、健診でひっかかってもスルーされやすい脂肪肝。
今回は、肝臓の機能と肝硬変、脂肪肝について解説します。
健診などで肝機能の数値がひっかかって、エコーの検査を受けたところ、「ただの脂肪肝だから大丈夫。」と言われてほっとした、ということをよく聞きます。
果たして、「ただの脂肪肝は大丈夫」なのでしょうか?
脂肪肝だからといって今すぐ命にかかわるかと言われると、そういった例は少ないでしょう。
だからといって、そこでスルーしたら、何のための健診ですか…
脂肪肝は、れっきとした病気です。
脂肪が蓄積し、肝臓にダメージが蓄積すると、慢性的な炎症を引き起こし、肝臓が硬くなり、肝硬変や肝臓癌になる恐れがあります。
早期発見、早期治療。
危険な脂肪性肝炎でないかどうか、定期的な血液検査や画像検査(エコーなど)のフォローをしながら、生活習慣の改善が必要です。
◼️肝臓の働きと肝硬変
肝臓は、たくさんの働きを担っています。
体の外から入ってきた毒や体の中で作られた不要なものを分解したり、
体の機能に必要不可欠な蛋白を作ったり、出血を止めるための物質を作ったり、
脳のエネルギーとなる糖を蓄えて必要な時にすぐ供給できるようにしたり、
血糖を調節するホルモンを作ったり、
赤血球のもとである鉄を貯蔵したり、
胆汁という消化液を作ったり、
免疫に関与していたり…
たくさんの働きを果たしており、生命を維持するためにとても重要な臓器だということがお分かりいただけると思います。
肝臓に慢性的な炎症が加わると、徐々に肝臓が硬くなります。
肝臓が硬くなることを「線維化」といいますが、肝臓の線維化は症状がないまま少しずつ進みます。
そしてついには肝硬変となり、肝臓の働きを果たせなくなります。
肝臓がうまく働かなくなると、脳へ糖が届かなくなったり、体に毒が溜り、血流が滞り、水も溜り、免疫力が衰えたり、出血しやすくなったり…。
低血糖、脳症、腹水、感染、出血…とにかく大変なことになります。
硬くなり機能を失ってしまった肝臓を元に戻す薬はまだなく、肝硬変の根本的な治療は肝移植しかないのが現状です。
そして、肝硬変は肝臓癌の温床となります。
◼️肝硬変の原因
肝硬変や肝臓癌を引き起こす原因として、かつて多かったものはウイルス性肝炎でした。
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスなどの肝炎ウイルスが、血液や体液を介して感染し、肝臓に住み続けて慢性肝炎を引き起こします。
(余談ですが、様々な臓器に関して、慢性的に炎症があると、癌のリスクとなります。)
しかし、現在では肝炎ウイルスに対する感染予防策や治療が飛躍的に進歩し、いまやC型肝炎は‘治せる‘病気になりました。B型肝炎も、ウイルスを排除するまではいかなくとも、炎症を起こさないよう抑えることができるようになり、肝硬変の原因のうちウイルス性肝炎が占める割合は減少してきています。
一方で、肝硬変の原因として増加しているのが、脂肪性肝炎です。
◼️脂肪性肝炎とは
肝臓は、体の余分なカロリーを脂肪に作り変えて溜め込む性質がありますが、過剰な脂肪の蓄積は肝臓に炎症を起こします。これを脂肪性肝炎といい、慢性肝炎、肝硬変、ひいては肝臓癌の原因となります。
脂肪性肝炎は、アルコールが原因のものと、そうでないものに分かれます。
①アルコール性肝炎
過度のアルコール摂取を続けることで、アルコールによる直接的な毒性だけでなく、脂肪が蓄積することにより肝臓に炎症が起こり、肝臓が弱っていきます。
そこへ大量のアルコールを摂ると、肝臓が急激な炎症を起こし、肝臓が働かなくなり、命を落とすような重篤な状態になることも少なくありません。
男性に多い病気ですが、女性のアルコール摂取機会は増加傾向にあります。女性は男性よりも少ないアルコール量で炎症を起こしやすく、短い期間で肝硬変に至ることがわかっています。また精神的にも依存しやすい傾向があるため、飲酒には注意が必要です。
②非アルコール性脂肪性肝炎(マッシュ:MASH: Metabolic dysfunction-Associated Steatohepatitis)
こちらは、あまり聞きなじみがないと思います。2023年6月まではナッシュ : NASH: Non-Alcoholic Steatohepatitisと呼ばれていました。
アルコールの多飲によらない脂肪性肝炎の総称で、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病がある方に発症するものです。いずれの診断も受けていない方でも、腹囲がメタボリックシンドロームの診断基準を満たしている場合にはリスクがあります。
◼️ただの脂肪肝とは?
ただの脂肪肝というのは、単純性脂肪肝といい、炎症が起きていない状態の脂肪肝です。
かつては単純性脂肪肝は経過観察のみでOKという時代もありました。
しかし、単純性脂肪肝からMASHを経て肝硬変となる例が報告され、現在では単純性脂肪肝とMASHは同じ病態であると考えられています。
非アルコール性脂肪性肝疾患(MASLD)の10~20%にMASHを合併し、肝硬変や肝臓癌などに至ることが分かってきました。
アルコール多飲歴のない脂肪肝の方の10人に1-2人です。けっこう多いですね。
「ただの脂肪肝」は、今やれっきとした病気であり、炎症がないかどうか、肝臓が硬くなっていないかどうか、定期的な血液検査や画像検査(エコーなど)のフォローをしながら、生活習慣の改善が必要なのです。
そしてMASHが疑われた時には、更なる精密検査を受けるために、専門の医療機関を受診する必要があります。
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飽食の時代、食べ過ぎることが簡単にできます。
カロリーが高いものの方が安価に手に入る場合も多いため、手軽にカロリーを摂りすぎてしまう時代です。
一度立ち止まって振り返ってみると、無意識に間食をしていたり、飲み物でカロリーを摂っていたり、バランスの悪い食事をしていたりという事に気づくはずです。
生活習慣病は日々の積み重ねですから、今少し意識を変えるだけでも、未来の自分は変わります。
そうは言っても、生活習慣ですから、一朝一夕には改善するのは難しい。
「続けること」を大切に、かかりつけ医をつくり、定期的に生活を見直す癖をつけていきましょう。